2 「北近畿・琵琶湖」「紀伊山地」「中央部」に3分割した近畿ビジョンの定着

 協議会では長い間、南北エリアふくめた近畿の魅力をどう表現していくか、またそれぞれのエリアでどう(おしきせや絵に描いた餅ではない形で)県境を越えた連携を形にしていくかについて、試行錯誤してきました。7期計画において試行した「近畿を南北3つに分けた地域連携」はそれらへの最も有効な回答の1つであると考えられます。
 第一に、多くの歴史資源がある近畿は外部から見て大変わかりにくい。第二に、「近畿全体」での話題や取り組みはどうしても京阪神や奈良に偏りがちであり、南北近畿を含めた広域振興ビジョンがなかなか見いだせていない。第三に、中心部以外の多くの地域関係者の現場感覚として、「近畿」というのは広域連携のサイズとして大きすぎる。そして最後に「北近畿・琵琶湖」「紀伊山地」ともに、それぞれの内部での広域連携が強く求められるタイミングを迎えている - からです。
 第七期にそうした分野で「各界の叡智結集」「具体的指針の明確化」への取り組みが始まったのはとても大きなことでした。
 北は「京阪神・中京圏をメインターゲット」に「環状高速道に沿った食と歴史の回廊としての連携」を、また南は「全国の歴史ファンをメインターゲット」に、世界遺産登録されている「紀伊山地の霊場と参詣道3県にわたる官民連携」を目指し、それぞれ持続可能性を念頭に置きながら、観光客のパイをエリア全体として維持・拡大していくことに知恵と力を出し合おう。そういったビジョンもある程度共有できました。
 北近畿・琵琶湖での「循環高速道路」開通、また紀伊山地の世界遺産登録10周年(いずれも2014年)を出発点に、第八期においても関係者の知恵を結集し、さらなるビジョンの明確化を進めるとともに、それを「絵に描いた餅」に終わらせないための共同事業実現や、提案活動などに取り組みたいと考えます。

(1)北近畿・琵琶湖における「食と歴史の回廊」の形成

①「環状高速道路」の開通を機に

 2014年夏に高速道路敦賀―小浜間が開通。七期には長年の懸案だった「北近畿・琵琶湖」エリアにまたとない連携のチャンスが訪れました。
 「循環高速」は琵琶湖、若狭湾、古代・丹後王国や山陰ジオパークから丹波、淀川を経て北近畿を一周。数々の歴史の場所(古代丹後王国関係・安土城・彦根城・竹田城・・・)が連なります。また、各地域は古代から都に海の幸、山の幸を供給してきた「和食」のふるさとでもあります。

 このエリアのメインターゲットとなるエリアは京阪神、加えて中京圏です。
 持続可能性を念頭に置きながら、知恵と力を出し合い全体パイの拡大に向けた(あるいは高速開通当初の賑わいをできるだけ縮小させないための)取組みを目指していく必要があります。
 そうしたビジョンをゆるやかに共有しつつ、各地域の行政・観光関係者や地域づくりリ-ダーが日常的に意見・情報・アイデアを交換し、各メンバー間や協議会事務局がの役割分担し各種事業を形にすることが、連携を絵に描いた餅に終わらせないための第一歩です。

②歴史・観光まちづくりの輪

 すでに彦根市、南越前市(南城地区)、京丹後市、口丹後地区(与謝野町・福知山市大江地区)、朝来市(和田山地区)、豊岡市(出石地区)、篠山市、高槻市、乙訓・八幡地区(大山崎町・長岡京市)、大津市、近江八幡市などでは、この「食と歴史の回廊」に沿う格好で「歴史街道モデル事業」計画が策定され、整備事業などが進められています。

 また、このエリアは近畿圏内における「観光まちづくりノウハウの宝庫」です。
 観光まちづくりの先進事例として名高いのは長浜や篠山、城崎(豊岡市)。以外にも例えば地方発情報の全国発信に成功した例に竹田城(朝来市)、半農半X(エックス:綾部市)、アイ・ラブ・OBAMA(小浜市)。最新技術と歴史資源の融合では安土城タイムスコープ(近江八幡市)。またイベントでは歴史街道100キロマラソン(京丹後市)、ジャズフェスティバル(高槻市)、ガラシャ祭(長岡京市)、地域あげての食資源の開発では出石皿そば(豊岡市)、海軍カレー(舞鶴市)、ひこね丼(彦根市)などがあります。
 各府県ごと、あるいは府県境をまたぎ広域的に活動してきた運動や組織に、近江歴史回廊(近江:行政)、びわイチ(同:民間)、NPO北近畿みらい(丹後・但馬・丹波)、NPOノオト(但馬・丹波)や若狭湾観光連盟、北近畿観光連盟、北近畿タンゴ鉄道(丹後・但馬)など、多様な担い手が存在することも、このエリアの強みです。
 七期にはこの高速開通を契機に、各地域の官民からなるゆるやかな連携会議が結成されました。

「北近畿・琵琶湖 食と歴史の回廊」を作ろう会(構成メンバーの所属組織)

NPO北近畿みらい(綾部市)日本観光ネットワーク(豊岡市)Camel(豊岡市) 丹波の森研究所(篠山市)ClubTap(大山崎町) 若狭湾観光連盟 北近畿広域観光連盟 信楽町観光協会 東近江市観光協会 舞鶴広域観光公社 京丹後市観光協会 NPO但馬国出石観光協会 吹田市にぎわい観光協会 茨木市立文化財資料館 高槻しろあと歴史館 大山崎歴史資料館 滋賀県立大学 成美大学 JR西日本 JTB 日本旅行 KNT-CTホールディングス 北近畿タンゴ鉄道 丹後海陸交通 全但バスクラブツーリズム 大津市 近江八幡市 彦根市 舞鶴市 福知山市 宮津市 与謝野町 豊岡市 朝来市 三木市 篠山市 高槻市 茨木市 滋賀県 福井県 京都府 兵庫県 近畿運輸局 近畿地方整備局 歴史街道推進協議会 (65名)

 加えて、協議会でも七期において地域ごとに琵琶湖・中山道での「日本風景街道」事業(MAP作成・自転車による琵琶湖一周の推進)、丹後・但馬連携会議の開催や広域MAPの相互貼付、淀川沿岸における西国街道連携(メインルートの章参照)などに取り組んできました。
 「食と歴史の回廊」の形成を目指してこれらの組織、あるいはそれに関わる人材間の交流を進め、様々な「化学変化」の媒介となること、さらには現時点では事業毎に縦割り状態となっている国プロジェクト関係者(観光圏・道の駅・風景街道・・・)なども交えて、「歴史・観光まちづくりの輪」にしていくことが、八期の大きな課題です。
 各地域や組織における事業を充実していくことはもちろんですが、そもそも高速開通までは十分な交流がなかったエリアですから、「食と歴史の回廊」全体としてのマスタープランづくりをイメージしていくことが大事です。
 それぞれの取組みを一旦棚卸しし関係者全員に「見える化」するとともに、相互に活用できそうなノウハウはどれで、トータルとして足りない部分はどこか? 協議会含めた役割分担の中でそうした議論が進められれば理想的ではないかと考えます。

③情報発信

ⅰ 情報や事業の整理・編集

 そのような中、協議会がある程度先導すべき事柄に、情報発信があります。
 まず、不可欠なのは情報の整理と編集でしょう。七期ではパンフレット大幅改訂とあわせ一定の作業がおこなわれ、全体を14の1日コースと5泊6日からなるモデルコースにまとめましたが、個々のコースの精査など含めさらにこれをブラッシュアップしていくことが必要です。

 ブラッシュアップにあたっては各地の再調査はもちろん、過去のツアー結果なども参考にしていく必要があります。

<協議会が実施した過去のツアー例>
近江中山道を歩く 鳥居本駅から醒井宿へ(彦根市)
JR彦根駅集合・・・鳥居本宿(本陣跡・赤玉神教丸本舗)・・・番場宿(蓮華寺:参拝・昼食)・六軒茶屋跡・西行水)・・・醒井宿・・・JR醒ケ井駅
花はす温泉と越前戦国ルートを訪ねる旅(福井県中央部)
1日目:JR京都駅集合・・・越前竹人形の里(丸岡町)・・・永平寺(永平寺町:参拝・昼食)・・・一乗谷朝倉氏遺跡(福井市)・・・花はす温泉そまやま(南越前町:宿泊・夕食後講演会) 2日目 鵜甘神社・・・妙泰寺・・・湯尾峠・・・今庄宿(羽根曽おどり実演)・・・板取宿・・・JR京都駅
みほとけの里 若狭小浜を行く(若狭町・小浜市)
JR京都駅集合・・・福井県立若狭歴史資料館・・・羽賀寺・・・(昼食)・・・若狭姫神社・若狭彦神社・・・神宮寺・・・鵜の瀬・・・熊川宿・・・JR京都駅
丹後半島一周・味覚と伝説の旅(福知山市・与謝野町・京丹後市・伊根町・宮津市)
1日目 JR新大阪駅集合・・・酒呑童子の里・日本の鬼の交流博物館(福知山市)・・・リフレかやの里(与謝野町:昼食)・・・古墳公園・ちりめん街道・・・乙女神社(京丹後市)・・・夕日ケ浦温泉(宿泊) 2日目 夕日ケ浦温泉・・・最北子午線塔・・・静神社・・・嶋児神社・・・琴引浜鳴き砂資料館・・・はじうど荘(昼食)・・・立岩・間人皇后母子像・・・古代の里資料館・・・経ケ岬・・・浦島神社(伊根町)・・・道の駅舟屋の里伊根・・・天橋立(宮津市)・・・傘松公園・・・JR新大阪駅
但馬の自然と歴史・文学ロマンをたどる(朝来市・豊岡市)
1日目 JR大阪駅集合・・・生野銀山(朝来市)・・・生野まちづくり工房・・・竹田城跡(昼食)・・・寺町通・・・城崎温泉  2日目 城崎文学館・・・コウノトリの郷公園・・・出石(昼食・散策)・・・JR大阪駅
庄屋屋敷とビールの歴史(吹田市)
JR岸部駅集合・・・旧西尾家住宅・・・浜屋敷(昼食)・・・JR吹田駅→JR岸部駅・・・旧中西家住宅・・・JR岸部駅→JR吹田駅・・・アサヒビール吹田工場・・・JR吹田駅解散
光秀・秀吉の戦跡を訪ねる(大山崎町・長岡京市)
JR山崎駅集合・・・離宮八幡宮・・・宝積寺・・・旗立松(展望台)・・・十七烈士の墓・・・酒解神社・・・天王山山頂・山崎城跡・・・山崎聖天・・・大山崎町歴史資料館・・・(昼食)・・・西国街道・・・勝竜寺城公園・・・JR長岡京駅
一番丸で巡る「近江八景」(大津市)
JR石山駅集合・・・石山寺・・・(昼食:しじみ御膳)・・・石山寺港にて一番丸乗船=大津港(三井の晩鐘)=唐崎神社(唐崎の夜雨)=浮御堂沖(堅田の落雁)=比良山系(比良の暮雪)=堅田港着・・・浮御堂拝観・・・乗船=大津港
信長天下取りの拠点 特別史跡・安土城を行く(近江八幡市)
JR安土駅集合・・・安土城考古資料館(講演・昼食)・・・信長の館・・・安土城跡・・・セミナリヨ跡・・・安土城郭資料館・・・JR安土駅

 過去さみだれ式に実施されてきたこれらのツアーについても、今後はできる限り「回廊」全体のシナリオに沿い、より計画的で「わかりやすい」形での定番化が望まれるでしょう。

ⅱ 情報発信力の強化

 これまで、情報発信面での北近畿・琵琶湖の弱点と目されてきたのは以下のような点です。
 第一はやはり遠方感です。京阪神住民からも、北には一度行けば当分行かなくていい場所のようなイメージを持たれています。第二に、「繰り返し北に行く」イメージの希薄さ。例えば近江のA市に行った人が、次に但馬のB市に行きたいと思うイメージがありません。これらは①で触れたようにエリア内の情報がうまく整理、類型化されていないことなどにも起因していると考えられます。
 第三に各地域の独自感・バラバラ感。これでは情報発信力にも限界があります。
 「循環高速道路」の開通や、それを契機とした「食と歴史の回廊」の形成により、これらが少しずつ解消されていくことが理想です。
 情報発信面では七期において名古屋・大阪へのメディア訪問、また2012年にはシンポジウム「歴史・文化・自然 - 北近畿の魅力発信」を大阪で開催しました。

 マスコミ・旅行会社の現地招待、幕張メッセでの展示をおこなってきた等、各地域とのの事業実績もあります。
 以外にも月刊「歴史街道」、新幹線車内誌「ひととき」、歴史街道倶楽部会報誌の「歴史の旅人」などでの情報が定期的に流れる形にはなっています。
 八期においてはポータルサイトなど基礎的な広報素材の充実を図っていくとともに、中日本・西日本高速や大阪メディア、北陸新幹線の金沢(福井)延伸を踏まえたJR、国際港湾指定を受けた舞鶴港などの活用との連携の道を探り、基礎的かつ総合的な広報を意識した強化をおこなっていく必要があります。

④多様な共同事業を

 七・八期より大きくコンセプトが変わるこのエリアには、連携による様々な事業の可能性が出てきています。活用可能な素材や事業ノウハウも色々あります。
 実現の多くは各地域のニーズや熱意、また関係者の合意やそれなりの外部資金が獲得できるか否かにかかっていますが、以下にそのいくつかにつき例示しておきます。

ⅰ すぐにでもできること

 すぐにでもできることをできるだけ確実に形にしていくことが重要です。
 例えば各地の観光パンフをデータ化し、ネットから取り出せるようにしていくこと。各地の各地の催事や体験・まちあるきメニューをネット上などで共同PRしていくことなど、各関係者の合意のみでできる事業は少なくありません。

<催事連携のイメージ>
 びわこ盆梅クルーズ(1-3月:大津市・長浜市)→左義長まつり(3月:近江八幡市)→たんとうチューリップまつり(4月:豊岡市)→田辺城まつり(5月:舞鶴市)→ほたるまつり(6月:京丹後市)→ゆかた祭(7月:彦根市)→ドッコイセまつり(8月:福知山市)→銀谷(かなや)まつり(9月:朝来市)→ちりめん街道まるごとミュージアム(10月:与謝野町)→金物まつり(11月:三木市)→冬のとらふぐキャンペーン(12月:小浜市)
<舞鶴市における体験・まちあるきメニュー例>
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  • (漁村体験)
  • (かまぼこづくり)
  • (みなとめぐり)
  • JR西舞鶴駅~五老スカイタワー~引揚記念館~赤れんが博物館~とれとれセンター~JR西舞鶴駅(乗り入れバス利用・約3~4時間)
    JR東舞鶴駅~赤れんが博物館~自衛隊桟橋~海軍記念館~海軍墓地~舞鶴湾巡り~JR東舞鶴駅(乗り入れバスと遊覧船利用・約3時間)
    JR西舞鶴駅~田辺城資料館~3社9か寺巡り~とれとれセンター~JR西舞鶴駅(徒歩と乗り入れバス利用・約3時間)
    ⅱ複数地域による連携事例の開拓

    全体としての連携だけでなく、いくつかの地域や組織間が連携するだけでも様々なことが可能です。

    <NPO北近畿みらいとの共催ツアー>
    2013年(丹後・但馬・丹波の偉人シリース)
     戦国武将・明智光秀(福知山:4月13日)、儒学者池田草庵とその門人 北垣国道(養父:5月18日)、グンゼ創業者・波多野鶴吉(綾部:6月15日)、元帥海軍大将 東郷平八郎(舞鶴:7月13日)、戦国のヒロイン・細川ガラシャ(京丹後:7月27日)、冒険家・植村直己(豊岡:8月24日)絵師・円山応挙(香美:9月14日)、歌人・与謝野鉄幹・晶子(与謝野:10月5日)、彫刻師・中井権次(丹波:11月16日)
    2014年(花とパワースポット)
     「言霊の大切さ」亀岡市:磐田出雲大神宮宮司(3月29日)、「但馬大仏」香美町:五十嵐長楽寺住職(4月19日)、「但馬学」養父市:島垣但馬学研究会会長(5月17日)、「花の説法」福知山市:小藪観音寺住職(6月21日)、「夢とロマンの丹波竜の里」丹波市:発見者村上氏(7月26日)、「生野銀山と鉱山町」中井井筒屋運営委員会委員長(8月30日)、「籠神社の秘伝と豊受大神」宮津市:海部籠神社宮司(9月20日)、「祖父出口王仁三郎を語る」出口大本相談役(10月18日)、「日本のふるさと丹後王国」伴とし子(10月24-25日:バスツアー)、「金剛院の歴史と文化」松尾金剛院住職(11月22日)

    左:姫路城・大阪城・長浜城による相互PR看板の設置例
    中・右:車による細川ガラシャラリ-(歴史街道推進協議会、JAF共催)

    市町村マークを活用した商品づくり

    ⅲ「企画倉庫」を充実させよう

     と、同時に、日常的なアイデアの交換を通して、外部資金が獲得できればやりたい企画をできるだけ多く「倉庫」に入れておくことが大事です。例えば各拠点における「QRコード付き全体マップ」の設置、それらを結ぶラリーの開催、朝日放送の「歴史街道」番組ソフト(約3800回中25%が「食と歴史の回廊」関係地)を各拠点やネット上で再活用していくことなどです。

    (2)紀伊山地の霊場と参詣道における連携

    ①事業の方向

    「“紀伊山地の霊場と参詣道”は、単に熊野がすばらしいから世界遺産になったわけでも、高野がすばらしいからなったわけでも、そして吉野がすばらしいからなったわけでもありません。あの紀伊半島の大自然の中に、それぞれ違う宗教(神道・修験道・仏教)、違う聖地性をもったものが混在し、それが道でつながって、千年単位で 日本人の心を癒してきた、信仰心を培ってきたことが素晴らしいのです。」

    「2001年9月11日の同時多発テロ以前だったら、異なる宗教の融合という状況に(世界が)ピンとこず、相手にされなかったかも知れません。 しかし、ヨーロッパ社会もどうもグローバリゼーションが怪しくて、黒か白かで決めつけると結局は争いの種を生むだけであり、多様なものを認めない と、もう共存共栄していけないのではないかという、世界の大きな流れが生じたのです。そんな中で、日本人の多様性を育んでいる紀伊半島の地域性 が、日本だけの宝物ではなくて世界の宝物として認めてもいいのではないかという気運があって、満場一致で世界遺産に登録されたのだと思っています。」

     以上は世界遺産登録5周年時の三重県南部振興局主催シンポジウムで、吉野・金峯山寺の田中利典執行長が発言された内容です(原書房「熊野 神と仏」に収録)。

     七期の2012年、台風被害からの復興宣言で15社程度の東京メディア訪問をおこなった際に同書を各社に贈呈した所、多くの番組制作者・記者・編集者らから「やっとわかった」「面白かった」といった反響が寄せられました。

     言い換えれば、このエリアの最大の弱点は、発信される情報の中心が3つの県(三重・奈良・和歌山)や各地域、また鉄道会社(JR東海・JR西日本・南海・近鉄)などによる「各地情報」で、なかなか「紀伊山地の霊場と参詣道」全体の神髄が、外部に伝わっていない点にあるのではないかと考えられます。

     2013年の伊勢の式年遷宮が大ブレイクした要因の1つは(出雲大社の60年ぶりのそれと重なったこともあり)「遷宮」という大事業が国民の中に大きな勢いで普及し、感動・感嘆や興味を生んだということ。紀伊山地も伝えるべき情報内容には満ち溢れたエリアですから、やはりエリア全体としての情報発信にいかに取り組んで行けるかが大事です。

     一方、紀伊山地のもう1つの重要なテーマは「持続可能な広域圏形成」でしょう。世界遺産の維持に対する支援策の問題、また今後、各地域でどう交流人口による経済ができていくのかという課題があります。

     様々な歴史資源がありその整理や編集も課題ですが、不幸か幸か、各地への訪問は「名古屋から」「大阪から」「奈良から」と白浜空港利用の4ゲートしかありません。分かりやすい資源整理やコース設定などを通し、歴史文化以外に例えば「温泉地のハシゴなどによる長期滞在を楽しめるエリア」といった未来も思い描いていく必要があると考えられます。

    ②全体情報の発信

     先に述べたように、関係各地とりわけ3つの県からの情報発信はそれぞれ充実しています。
     とりわけ2014年は世界遺産登録10周年、翌年は高野山開山1200年にあたり、各地で様々な事業が展開されるとともに、和歌山県がデスティネーション・キャンペーンを実施するなどの広報宣伝活動がおこなわれました。
     しかしながら「紀伊山地の神髄を示す全体情報の発信」の担い手は多くありません。
     こうした年度が終わる八期中盤から、それらによる落ち込みをいかに減少させていくことができるか。宗教界や紀伊半島三県会議、「吉野・高野・熊野の国」プラン、JR・高速道路・白浜空港の利用促進などとの連携ふくめ、一つの勝負どころとなります。

    ⅰ シンポジウム(6-7期)

     金峯山寺・金剛峯寺・熊野本宮など宗教関係者からなる「紀伊山地三霊場会議」などとのコラボによるシンポジウムを、東京・大阪にて5回に渡り開催しています。
     以外にも高野山における世界遺産サミット(和歌山県主催:2014年)の事業への協力などをおこないました。

    ⅱ 広域パンフレットの作成(7期)

     作成にあたり以下のような形で紀伊山地の魅力を絞り込み、また大阪・名古屋などからのモデルコースを設定しましたが、さらなるブラッシュアップが必要です、八期においてはこうした内容にさらに見直しを加え、HP等、以外のメディアでの展開も検討します。

    1) 6古道+8寺社
    ・熊野古道中辺路+熊野那智大社(那智勝浦町)、熊野本宮大社(田辺市)、熊野速玉大社(新宮市)
     ・熊野古道大辺路 +闘鶏神社(田辺市)
     ・熊野古道小辺路 +金剛峯寺(高野町)
     ・熊野古道伊勢路 +伊勢神宮(伊勢市)
     ・大峯奥駈道 +金峯山寺蔵王堂・大峯山寺(吉野町)
     ・熊野街道     +紀州東照宮(和歌山市)
    2)7湯
    ・白浜温泉(白浜町)、勝浦温泉(那智勝浦町)、湯の峰温泉(田辺市)、龍神温泉(田辺市)、湯の口温泉(紀和町)、洞川温泉(天川村)、十津川温泉(十津川村)
    3)パワースポット(7)
    ・神倉神社(新宮市)、古座川の一枚岩(古座川町)、大斎原(田辺市)花の窟神社(熊野市)、天河弁財天社(天川村)、玉置神社(十津川村)、立里荒神社(野迫村)
    4)絶景(4)
    ・鬼が城(串本)、七里御浜(熊野市ほか)、鬼が城(熊野市)、瀞峡(三県)
    5)TOPIC
    体験:宿坊体験、修験体験、ほんまもん体験
     その他:仙人風呂、日本一長い路線バス、瀞峡めぐり、ちかつゆ、エコーツアー、語り部と歩く熊野
    情報:世界遺産センター(2箇所)、歴史街道iセンター(5箇所)
    ⅲ ツアーコースづくり

     八期には、紀伊山地全体を何種類かのツアーコースで因数分解し、それをきちんと記録するような事業ができればと思います。

    <協議会における紀伊山地関係ツアー>(-七期)

    熊野に宿る神と自然を訪ねて 古座街道と南方熊楠ゆかりの地を行く
    1日目 新大阪駅集合・・・周参見(昼食)・・・古座街道ウォーク(解説含む)・・・南紀月の瀬温泉(泊) 2日目 那智・熊楠の道(解説含む:昼食)・・・神倉神社・・・浮島の森・・・JR新大阪駅
    桜と修験道のまち・吉野を訪ねる
    あべの橋駅集合・・・橿原神宮駅・・・(講演・吉野町PR)・・・吉野駅・・・如意輪寺・・・(昼食)・・・吉水神社・・・吉野山ビジターセンター・・・金峯山寺・・・吉野駅駅・・・あべの橋駅
    真言密教の聖地・高野山へ
    1日目 JR新大阪駅・・・慈尊院・・・丹生都比売神社(昼食)・・・高野山町石道ウォーク(矢立ー大門)・・・宿坊(泊) 2日目 朝の勤行・・・日本山岳修験研究会(講演)・・・霊宝館・・・金剛峯寺ほか(自由拝観)・・・JR新大阪駅
    歴史にふれる伝統的地場産業探訪の旅
     1日目 大阪発・・・石神梅林見学(昼食)・・・紀州備長炭発見館(体験)・・・南部川村うめ振興館
     2日目 熊野古道(近露王子・野中の一本杉・とがの木茶屋・秀衡杉・野中の清水)・滝尻王子・熊野古道館:途中昼食)・・・大阪
    熊野古道 中辺路―本宮を訪ねる
     1日目 大阪・・・田辺・・・滝尻王子・・・不寝王子・・・牛馬王子・・・近露(泊)
     2日目 近露・・・中ノ河王子・・・渡瀬温泉(入浴)・・・熊野本宮大社・・・田辺・・・大阪
    伊勢路 始神峠を越えて熊野三山へ(東紀州)
    1日目JR京都駅集合・・・道の駅まんぼう・・・始神さくら広場(昼食)・・・始神峠(現地ガイド)・・・熊野古道センター・・・鬼ケ城・・・熊野倶楽部(宿泊)  2日目 産田神社(現地ガイド)・・・花の窟神社(現地ガイド)・・・那智勝浦(昼食)・・・那智勝浦大社・・・熊野本宮大社・・・JR大阪駅
    ⅳ メディア訪問

    2012年・14年に東京(新宮市・田辺市・那智勝浦町・高野町・吉野町)、2013年には名古屋へのディア訪問(那智勝浦町・吉野町)をおこないました。

    ⅴ 全国13の世界文化遺産地域による「世界文化遺産」地域連携会議(会長・京都市長:世界文化遺産をもつ市町村長と専門家130名で構成:4で後述)とのコラボで、以下のような広報事業を実施しました。

     関西国際空港、大阪駅・新大阪駅・天王寺駅・京都駅・三宮駅におけるPR
    (2012:2週間×59スクリーン)

    世界遺産地図展(2013・京都駅ポルタ:入場10万人:写真左)
    海外でのパネル展示(2012ー:ボストン、ソウル、釜山、北京=写真中・右)
    11言語によるHP紹介(2012ー)

    ⅵ その他

     ・朝日放送「歴史街道ロマンへの扉」(各地紹介番組:計700回)
     ・月刊「歴史街道」「ひととき」「歴史の旅人」等におけるPR
     ・高野山開創1200年への協力
     ・研修事業(吉野)

    ③持続可能な広域圏づくり

    ⅰ 歴史街道モデル事業

    田辺市(本宮地区・口熊野地区)、橋本市、新宮市、那智勝浦町、高野町、紀の川大和街道地区、吉野町、橋本市、西熊野街道周辺地区(五條市、天川村、十津川村、野迫川村)、吉野町において「歴史街道モデル事業」計画が策定され、整備事業などが進められてきました。


    (左から新宮市、田辺市本宮地区、西熊野街道周辺地区における整備計画)

    ⅱ 紀伊半島交流会議の再興

     北近畿・琵琶湖同様、七期において世界遺産登録10周年(平成26年)を機に、ゆるやかな連携組織づくりに取り組みました。

    紀伊半島交流会議(構成メンバーの所属組織)
    くまの体験企画(尾鷲市)海の熊野地名研究会 み熊野ねっと 東紀州ITコミュニティ 熊野川体感塾 海山熊野古道の会 熊野古道語り部 熊野エコツーリスト うた加楽衆 わかやま旅企画 グリーンエデュケーション 鼓動の会(十津川村)吉野スタイル 紀伊半島交流会議伊勢街道分科会(宇陀市)紀伊民報 伊勢文化舎 KUMANO・JOURNAL 東紀州地域振興公社 田辺市熊野ツーリズムビューロー 白浜温泉国際観光交流協議会 熊野本宮観光協会 吉野山観光協会 吉野山旅館組合 JR西日本 南海電鉄 日本旅行 KNT-CTホールディングス クラブツーリズム 紀陽リースキャピタル 和歌山市 新宮市 高野町 那智勝浦町 白浜町 かつらぎ町 吉野町 天川村 十津川村 三重県 和歌山県 奈良県 近畿運輸局 近畿地方整備局 歴史街道推進協議会 (60名)

     世界遺産登録を前に協議会が事務局となり「紀伊半島交流会議」が結成されましたが、世代交代やメールの普及などの変化を踏まえ、それが新たにリニューアルされた形です。

    ⅲ 和歌山大学とのコラボレーション

     次世代の観光まちづくり人材の育成を目指し、和歌山大学(観光学部)との連携で、「歴史街道」講座、学生インターンの受け入れ、ツアーへの学生モニターなどを実施しています。
     第八期においても以上のような活動を継続・充実させていくことになります。

    ⅳ 地域連携事業の推進

     世界遺産登録10周年となった2014年には実験的に、エリア内の34の観光案内所ネットワークにおいて、3県パンフレットの相互設置事業をおこないました。
     外部資金の獲得などにより八期に実施可能となる地域連携事業例としては(1・2で出てきたもの以外に)過去の翻訳原稿(10言語:HP上で公開中)を活用した、共通の外国語対策などがあげられます。

    ⅴ 要望活動

     「世界文化遺産」地域連携会議とのコラボで、以下のような要望活動を実施しました。

    紀伊山地の霊場と参詣道
    ・11年夏の台風被害からの回復途上にあり、建造物周辺や古道の修復、アクセス道路等含めた、1日も早い完全復旧が望まれます。

    ・各省庁それぞれに支援戴いていますが、それらをうまくパッケージにし、世界遺産という横串で刺した、きめ細かな支援策ができればと願っています。例えば、コアゾーンの土地の買上げや修理整備に国庫補助が設けられていますが、補助の対象は200万円以上の事業です。古道の修繕としては石畳の破損や土砂の崩落、倒木などの小規模な破損が多いため、200万円以下の事業がほとんどです。また、古道の両側約50メートルをバッファーゾーンとしており、関係市町の景観条例などで保護されていますが、国庫補助の対象にはなっていません。


    (左:記者会見にて台風被害の状況を説明 右は奈良市長・京都市長など:文部科学記者クラブ)
    (右:NHKニュースでの報道)

     八期からの歴史街道計画は以上のように北から「北近畿・琵琶湖 食と歴史の回廊」「メインルート」「紀伊山地の霊場と参詣道」という3つの「ルート」を中心とした展開へとモデル・チェンジしていきます。

    1 近畿の歴史的地域、全体の底上げを目指して
    3 日本の発展をリードする組織に
    南北近畿の活性化を目指して